Author: kayokomisaki

Professor of Economics, Historian of Economic Thought

新講義 History of Economic Ideas and Globalization

2018年10月より、滋賀大学経済学部で新科目 History of Economic Ideas and Globalizationを開講することになりました。英語による少人数講義です。現代のグローバル経済を理解するうえで重要な鍵となる経済学の概念がどのような歴史的背景のもと誕生したのか考察します。留学生の履修を想定して、日本の近代化の歴史についても触れます。以下が講義の計画です。

1.Introduction 序論
2.Invisible Hand 1 見えざる手1
3.Invisible Hand 2 見えざる手2
4.Laissez-Faire and Free Trade レッセ・フェールと自由貿易
5.Poverty and Prosperity 貧困と繁栄
6.Industry インダストリィ
7.Comparative Advantage 比較優位
8.Utilitarianism 功利主義
9.Perfect Competition 完全競争
10.Entrepreneurship 企業者
11.Risk and Uncertainty リスクと不確実性
12.Economic Ideas and Japanese Modernization 日本の近代化と経済思想
13.Presentation レポート発表
14.Presentation レポート発表
15.Free discussion 自由討論

すでに経済学部では、日本語による専門科目「経済学史」「現代経済学史Ⅰ」「現代経済学史Ⅱ」を開講していますが、これら3科目が学者別、学派別にそれぞれの学説の意義を取り上げるのに対して、この英語講義は、概念別にその歴史的背景をとりあげ、歴史の予備知識があまりなくても容易に理解できるように配慮しています。ちなみにこの講義では、以下のような経済学者たちが登場します。

貴重書展示 ギゾーの書簡(1833)

 滋賀大学附属図書館の貴重書コーナーの展示替えを行いました。2018年秋の展示は、フランソワ・ギゾーの自筆書簡(1833)です。(展示の様子はこちら

 

 

以下、私の解説文の抜粋です。

ギゾー(François Pierre Guillaume Guizot,1787-1874)は、19世紀前半に活躍したフランスの歴史家、政治家である。今回展示するのは、本学図書館が所蔵する、1833年8月13日付のギゾーの自筆書簡である。この書簡は、2018年2月に購入した古書、ギゾーの代表作『ヨーロッパ文明史:ローマ帝国の崩壊からフランス革命まで』の英訳版(1839)に偶然貼り付けられていた。ギゾーはフランスの七月王政期、1832年から1837年まで公共教育大臣として、数々の教育改革に携わった。この書簡が書かれた約二か月前、1833年6月23日には、有名な初等教育法案「ギゾー法」が成立している。この書簡にも公共教育省の便せんが使われ、肩書も「公共教育大臣」となっている。書簡の相手は、当時ヘブライ語学の第一人者であったエティエンヌ・カトルメール(Etienne Quatremère)で、その内容は、ヘブライ語の文法教育をめぐるものであり、極めて礼儀正しい文体で書かれている。

なおこの書簡の内容と日本語訳は、『滋賀大学経済学部研究年報』第25巻(2018年11月末刊行予定)に「資料紹介」として掲載される予定です。公刊されたら、このサイトでもお知らせします。
今回は、この書簡が書かれた1830年代に出版された、ノディエ著『歴史的パリ』(Paris historique : promenade dans les rues de Paris, par Charles Nodier, Auguste Regnier et Champin ; avec ; avec un rèsumè de l’histoire de Paris, par P.Christian[pseud.]
Paris:F.G.Levrault, 1838-1839)も同時に展示しています。パリの歴史を美しい挿絵入りで解説した本で、当時の街の雰囲気が味わえます。

貴重書展示コーナーの次回の展示替えは、2019年3月を予定しています。

ESHET 2018 Madrid大会での報告を終えて

2018年6月7日から9日までスペインのマドリッドで開催された、European Society for the History of Economic Thought(ESHET) の第22回年次大会での論文報告を終えて帰国しました。

会場となったマドリッド・コンプルテンセ大学は15世紀に設立された由緒ある大学で、18世紀にはいち早く女性に博士号を与えたことでも知られています。今回の学会は、郊外にあるSomosaguasキャンパスで開催されました。マドリッド中心部からは地下鉄やトラムを使って移動する必要があり、少し不便でした。

 

私は二日目のセッションで、‟Léon Walras on the Worker-Entrepreneur”(詳しい内容はこちら)という論文を発表しました。聴衆はそれほど多くありませんでしたが、制限時間内にすべて返答できないほど、多くのコメントと質問がありました。予想していた通り、この論文は、J.B.セーの専門家にとってたいへん興味深かったようです。今後の共同研究につながりそうな予感です。

 

学会のディナー・パーティは、服飾博物館内にある有名レストラン Café de Orienteで開催されました。スペインの夕食は一般的に遅いのですが、このディナーも9時に始まりました。6月は日が長いので夜9時でもまだまだ明るかったです。1時間ほどは戸外でアペリティフを楽しみ、コース料理が始まったのは10時頃、デザートを終えると12時を過ぎていました。この夜はたいへん寒かったうえ、慣れない深夜の食事で胃腸が悲鳴をあげそうでした。

学会開催中、多くの研究者たちと再会し、また新たに知り合った研究者たちと研究情報を交換することができました。新たなプロジェクトへの誘いも受け、私の研究活動にとってはたいへん有意義な機会となりました。

ただ今回の出張は、帰国便が航空会社の突然のストでキャンセルになるなど、様々なハプニングに見舞われ、正直言って疲れ果ててしまいました。日本に帰って来れてほっとしています。

ESHET 2018 Madrid大会で報告します

2018年6月7日から9日までスペインのマドリッド・コンプルテンセ大学で、European Society for the History of Economic Thought(ESHET) の第22回年次大会が開かれます(大会HPはこちら)。今回の共通テーマはEntrepreneurship, knowledge and employmentです。

私はこの大会で、”Léon Walras on the Worker-Entrepreneur” という論文を報告することになりました(報告論文サイトはこちら)。ワルラス一般均衡理論における企業者利潤ゼロの仮定は、ワルラス・モデルの非現実性を象徴するものとして知られていますが、そこにこめらた現実的な意図はほとんど知られていません。この論文では、ワルラスが一般均衡理論を完成する前にとりくんだアソシアシオン(協同組合)運動の構想や、晩年の未発表メモなどを手掛かりに、企業者機能を兼ねる労働者について、ワルラスがどのような議論を展開しているか、考察します。これは、マルクスなどの同時代の社会主義者たちの利潤論に対するワルラスの批判や、ワルラスの企業者論に大きな影響を与えたとされるJ.B.セーとワルラスの議論の本質的な違いを理解するための重要な鍵になると考えています。

さて6月のヨーロッパは、日が長く、過ごしやすい天気で、花も満開です。このような美しい季節にマドリッドを訪れるのはとても楽しみです。

貴重書展示 近代統計の父ケトレ『人間論』『社会体制論』・プゥシェ『フランス統計論』

滋賀大学附属図書館の貴重書展示コーナーの展示替えを行いました。2018年春の展示は、統計学の古典3点です。

近代統計の父とされるケトレ(Quételet)の主著『人間論』の1869年増補版(Physique sociale, ou, Essai sur le développement des facultés de l’homme, 2 vols, Bruxelles : C. Muquardt, 1869)、同著『社会体制論』(Du système social et des lois qui le régissent, Paris : Guillaumin, 1848)、プウシェ(Peuchet)『フランス統計論』1801年初版( Essai d’une statistique générale de la France, Paris : Chez Testu, [1801])を展示しています。データサイエンス学部の新入生の皆さんに特に注目してほしい展示です。

 

以下、私の解説文の抜粋です。

 ケトレ(Lambert Adolphe Jacques Quetelet, 1796-1874)は、19世紀のベルギーで活躍した数学者、天文学者、統計学者、社会学者である。1835年に出版した主著『人間について(Sur l’homme et le développement de ses facultés, ou essai de physique sociale)』は、統計学と確率論を道徳科学に適用したことで後世に大きな影響を与えた。彼は、ベルギーとオランダの政府のために、犯罪や死亡などに関する統計を収集・分析し、国勢調査の改善を考案した。社会現象にも物理現象と同様に統計的法則性が存在するというケトレの考えによって、人間の自由意志はどのように位置づけうるのかという問題に関して、社会科学者たちの間で大論争が起こった。今回展示するのは、本図書館が所蔵するケトレの著作のうち『人間論』の増補版(1869)と、『社会体制論』(1848)である。この1869年の増補版は、『人間論』初版と、タイトルの語順が入れ替わっている。

 また革命後のフランスで、国勢調査の重要性を主張した、ジャック・プゥシェ(Jacques Peuchet, 1758-1830)の『フランス統計論』(初版1801年)も同時に展示する。この小論は同時に商業事典にも収録されたが、この冊子体そのものは印刷部数が限られ、当時の政府官僚にのみ行き渡った非常に珍しいものであるとされている。

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ジャック・プゥシェ『フランス統計論』(1801)

展示の様子はこちらです。次回の展示替えは、9月を予定しています。

ローザンヌ大学でのセミナー

(前の記事からの続きです)

2018年3月16日、ローザンヌ大学ワルラス・パレート研究所(Centre Walras Pareto d’études interdisciplinaires de la pensée économique et politique)でセミナーを実施しました。タイトルは、「日本のワルラシアン経済学者たちは、ワルラスの社会正義の概念をどうとらえたか Japanese Walrasian Econonomists on Walras’s Idea of Social Justice」 です。

セミナーの内容は、2017年1月にリヨンで行ったセミナーとほとんど同じでしたが、リヨンではワルラス経済学が導入された当時の日本の歴史的状況について多くの質問があったので、今回は、明治維新から1930年代までの欧米経済思想の日本への普及過程をできるだけていねいに説明しました。セミナーには、研究所長のRoberto Baranzini教授、François Allison講師をはじめとして、助手や博士課程の学生さんたちに参加していただきました。

3日間のローザンヌ滞在中、このセミナーのほかにも、研究所のスタッフの皆さんたちとランチやディナーを共にし、楽しい時間を過ごすことができました。さすが国際都市ローザンヌだけあって、スイス料理だけでなく、イタリア料理やギリシア料理も楽しむことができました。

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ローザンヌ大学のキャンパスはレマン湖畔にあり、普段は美しい湖と対岸のフランスのアルプスの絶景が楽しめるのですが、今回の滞在中は、残念ながらお天気が良くなかったので、アルプスの峰々はずっと雲に覆われたままでした。

ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査

2018年3月15日から3日間、スイスのローザンヌ大学ワルラス・パレート研究所(Centre Walras Pareto d’études interdisciplinaires de la pensée économique et politique)に滞在しました。今回の滞在の主な目的は、同大学に所蔵されているワルラス文庫の調査でした。これは、現在交付を受けている科研費のプロジェクト「ワルラス一般均衡理論の思想的起源の解明―ローザンヌ大学ワルラス文庫を手掛かりに」の計画に含まれているものです。

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ワルラス文庫の調査は、20年前から取り組んでいます。ワルラス自身による蔵書への書き込みを調べることにより、ワルラス経済学の形成過程を知ることができるのです。今回は特に、ジェヴォンズ、J.S.ミル、ルソーの著書への書き込みを調べることが目的でした。調査を始めたころは、暗くて寒い書庫の中でしか閲覧を許されなかったこともありましたが、今回は、滞在中、専用の研究室を与えられ、快適な環境で作業を効率的に進めることができました。

さて現在、この研究所が入っているle Géopolisという校舎は、とてもユニークな構造をしています。アルミホイルを貼ったような外見をしていますが、この校舎には開閉可能な窓がありません。エネルギーを無駄にしない最新鋭の空調設備が備えられているのです。

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この建物の中には吹き抜けがいくつもあり、ほとんどの部屋はその吹き抜けから採光するようになっています。吹き抜け側の壁は透明のパネルで、他の研究室が丸見えです。セキュリティ上はよいのかもしれませんが、少し落ち着かない雰囲気です。

数年前までワルラス・パレート研究所が入っていた古い校舎からは、窓からレマン湖とフランス・アルプスの絶景が臨めました。正直言うと、そちらの眺めの方が私は好きでした。

(続く)