セミナーのお知らせ

 2022年6月30日に、滋賀大学経済経営研究所の先端研究セミナーで講演をします。昨年公刊された私の論文、Kayoko MISAKI “Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith?,” The European Journal of the History of Economic Thought 28-3, 2021, 404 – 418 . https://doi.org/10.1080/09672567.2020.1837198.の内容を解説します。

 この論文の内容については、5年前、ジャーナルに投稿する前に、同研究所の English Lunch Seminarで報告し、多くの学生さんたちに参加していただきました。今回は日本語で、より詳細な内容を報告します。以下がセミナーの概要です。 

 本セミナーでは、2021年6月にThe European Journal of the History of Economic Thought誌に掲載された私の論文”Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith? “(レオン・ワルラスと『国富論』:ワルラスが実際にスミスから学んだこととは何か?)の内容を日本語で解説します。ワルラスの一般均衡理論は、スミスの「見えざる手」を理論的に発展させたものというのが、経済学の教科書に書かれている、一般的な解釈ですが、そのような常識に真っ向から挑むことが本論文の目的です。ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査も手掛かりに、ワルラスとスミスとの知られざる影響関係を明らかにします。

このセミナーは、学外の方も参加可能です。興味のある方はぜひご参加ください。セミナーの詳細と申し込みはこちらです。

ギャラリートークのお知らせ

  滋賀大学附属図書館貴重書展示コーナーでは、2022年春の展示として、アダム・スミスの『国富論』とJ.B.セーの『経済学概論』を展示しています。この展示について、5月と6月にギャラリートークを行うことになりました。コロナウィルスの感染状況を踏まえ、今回は学内の方(教職員と学生)のみを対象とさせていただきます。

 詳細についてはこちらをご覧ください。皆様の参加をお待ちしています。

貴重書展示 スミス『国富論』とセー『経済学概論』

 滋賀大学附属図書館の貴重書展示コーナーの展示替えを行いました。2022年春の展示は、アダム・スミスの『国富論』(1791年バーゼル版)とJ.B.セー『経済学概論』(1832年アメリカ版英訳第5版)です。新入生の皆さん、ぜひご覧ください。

 今回展示する『国富論』は非常に保存状態が良く、美しい本です。有名な「見えざる手 (invisble hand)」が登場するページが開いてありますので、探してみてください。またJ.Bセーは、ケインズが批判した「セー法則(Say’s law)」で有名ですが、シュンペーターよりも100年以上前に企業家論を展開していた経済学者としても注目されています。

 以下が私の説明文の抜粋です。

 1776年、アダム・スミス(Adam Smith, 1723⁻1790)の主著『国富論』(原題「諸国民の富の原因と性質に関する研究」)の初版が、ロンドンで出版された。『国富論』は、現在でも経済学の古典として不動の地位を占めている。今回展示するのは、1791年にスイスのバーゼルで出版されたものであるが、これは、本国イギリス以外で初めて出版された英語版である。『国富論』は、世界各国の経済学や経済政策、近代化の思想に大きな影響を与えたが、それが本格的に各国で普及するのは19世紀になってからである。その際、『国富論』の解説書として、普及したのがフランスの経済学者J.B.セー(Jean Baptiste Say, 1767-1832)の『経済学概論』(初版1803年)であった。セーの著作は、スミスの『国富論』よりも説明がわかりやすく、スミスよりも企業者の役割を重視していた点で、特にアメリカで人気を博した。セーの考える企業者の役割には、知識の応用、資本の調達、指揮、監督、管理、危険負担、技術革新などが含まれ、生産性の上昇の要因として、スミスが分業のみを議論していたのとは対照的である。セーの考え方は、現在も企業家論、イノベーション論の源流として注目を浴びている。本図書館は、セーの『経済学概論』のアメリカ版英訳第5版(1832年)を所蔵している。

展示の様子はこちらです。次回の展示替えは、9月を予定しています。

日本ベンチャー学会での講演

 2021年12月3日から5日まで日本ベンチャー学会(JASVE)第24回全国大会 が開催されました。私は5日の午後「シュンペーターとイノベーション:その歴史的・思想的背景」という講演をしました。この大会はハイブリッド方式で開催され、私は主催校である大阪経済大学から参加しました。対面形式で学会に参加したのは実に2年ぶりです。

経営学の学会に招かれたのは、これが初めてです。私の報告の意図は、シュンペーターの企業者概念を、彼が最も影響を受けたワルラスやその源流にあるセーやカンティロンなど、フランスにおける企業者概念の歴史から再考し、経営学におけるシュンペーターとカーズナーとの対比についても新たな理解方法を示すことでした。

 対話者の伊藤 博之氏(大阪経済大学教授)をはじめとして、参加者の皆さんから大変刺激的な質問とコメントをいただきました。私のこれまでの研究が、当初は予想していなかった分野で多くの方々の研究に役立つことがわかり、とてもうれしかったですし、ここで得た知見をもとに、私自身の研究もさらに発展しそうです。今後もこのような新しい挑戦を続けていきたいと思います。

貴重書展示 ジェヴォンズ・ワルラス・マーシャル・パレート

滋賀大学附属図書館の貴重書コーナーの展示替えを行いました。2021年秋の展示は、「現代経済学の誕生」というテーマで、ジェヴォンズ、ワルラス、マーシャル、パレートの著作を展示しています。

 滋賀大生の皆さんは「現代経済学基礎」等の授業で、彼らが生み出した経済学の概念について、学んでいます。また秋学期に私が開講する「現代経済学史Ⅰ」の授業でも、これらの経済学者たちが登場します。履修をする人は、ぜひ貴重書コーナーに足を運んでみてください。

私の解説文の抜粋はこちらです。

1871年、イギリスのジェヴォンズ(William Stanley Jevons, 1835-1882)が、『経済学の理論』の初版を出版し、限界効用理論を世に知らしめ、古典派の時代にピリオドをうった。スイスのフランス人ワルラス(Léon Walras, 1834-1910)は、限界効用理論の発表については、ジェヴォンズに先を越されたが、そこからさらに進んで一般均衡理論を完成させ、主著『純粋経済学要論』 (初版1874‐77年)を公刊した。この著書は、ワルラスの存命中、第4版(1900年)まで版を重ね、各国に普及していった。ワルラスの一般均衡理論は、すべての経済主体、すべての市場における均衡とその相互依存関係を連立方程式で表現したものであるが、これによって、現代経済理論の基礎が築かれた。 イギリスのマーシャル(Alfred Marshall, 1842⁻1924)の主著『経済学原理』(初版1890年)は、1920年の第8版まで版を重ね、彼が教授を務めたケンブリッジ大学は、世界の経済学の中心となった。マーシャルは、「消費者余剰」、「外部経済」など、現代経済学の重要な基礎概念を確立し、マーシャルの分析方法は、ワルラスの一般均衡分析に対し、部分均衡分析と呼ばれる。 一方、ローザンヌでのワルラスの後継者パレート(Vilfredo Pareto,1848-1923)は、ワルラス一般均衡理論から出発しつつ、「パレート最適」という厚生経済学の重要定理を確立した(主著『経済学提要』、初版1906年)。

図書館の展示の様子はこちらです。

次回の展示替えは、2022年3月を予定しています。

Most read articles

 The European Journal of the History of Economic Thoughtの2021年6月号 Volume 28, Issue 3がこのたび公刊されました。ワルラスとスミス『国富論』の関係を論じた私の論文がこの号に掲載されています。

Kayoko MISAKI “Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith?,” The European Journal of the History of Economic Thought 28-3, 2021, 404 – 418 (published on line, October 2020): https://doi.org/10.1080/09672567.2020.1837198.

この論文はすでに昨年の10月にオンライン上で公刊されており、このサイトでも論文の内容とともにお知らせしました(記事はこちら)。現在、この論文は、このジャーナルの Most read articles (最も読まれている論文)の10番目にランクインしています。経済学史のトップジャーナルのひとつに論文が掲載されたこともうれしいですが、経済学史の分野を超えて多くの皆さんに論文が読まれていることも大変うれしいです。今後はこの論文が末永く、多くの研究者に引用されることを願っています。

貴重書展示 トマス・モア『ユートピア』

 滋賀大学附属図書館の貴重書展示コーナーの展示替えを行いました。

2021年春の展示は、トマス・モア『ユートピア』(仏語版 1715)です。この著作のタイトルは、新入生の皆さんにもおなじみでしょう。美しい挿絵のコピーも一緒に展示していますので、ぜひ楽しんでください。

展示の様子はこちらです。

私の解説文の抜粋は以下の通りです。

トマス・モア(Thomas More, 1478-1535)は、法律家の子としてロンドンに生まれ、オクスフォード大学で学んだ。オランダのエラスムスから影響を受け、人文主義者の一人として才能を発揮すると同時に、政治家としても活躍した。当時の国王ヘンリ8世の信任を得て、1529年には、大法官の地位にまで上り詰めた。しかしながら、モアは、カトリックの立場から、国王の離婚を認めなかったため、ロンドン塔に投獄され、1535年、反逆罪で処刑された。モアは、1516年に『ユートピア』というタイトルの著作を、ラテン語で出版した。モアは、この著作において、当時のイギリスの「囲い込み」政策がもたらした、社会の悲惨な状況を批判すると同時に、理想的な社会である「ユートピア」(「どこにもない場所」という意味)を描写した。「ユートピア」という言葉は、やがて「理想郷」の代名詞となり、モアの著作は、ユートピア思想の源流として、現代にいたるまで大きな影響力を及ぼしている。1715年に出版された、仏語版『ユートピア』のタイトルは「英国の大法官、トマス・モアのユートピア:人々の不幸を癒し、人々に完全な幸福をもたらすための斬新なアイデア」となっている。仏語版には、物語の内容を伝える、美しい挿絵が掲載されている。 ユートピア島では、当時の社会とは違い、犯罪者は処刑せず、奴隷にして労働に従事させることになっていた。一般的な人々の労働時間は一日6時間で、学問や文化的活動、娯楽にあてる時間があった。大きく快適な病院が建設され、病気になっても安心して治療を受けることができた。病人以外の人々も、昼食と夕食は会館で配給され、共同で食事をしていた。その他、男女の労働の違い、結婚と離婚についてのしきたり、宗教や死生観など、理想社会における人々の生活が詳細に叙述されている。

次回の展示替えは、10月を予定しています。

Impact誌での研究プロジェクト紹介

 私のワルラス研究プロジェクトが、イギリスのImpact誌で紹介されました。

Kayoko, MISAKI. “Elucidating the intellectual origin of Walras’s General Equilibrium Theory”. Impact, Volume 2021, Number 2, February 2021, pp. 80-81.

学生時代にワルラスに興味を持ったきっかけから、ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査への取り組み、現在進行中のワルラスと企業者、リスク、不確実性の研究テーマに至るまで、インタビュー形式で説明しています。

「はるかなる手紙展」第3期ギゾーの書簡 展示始まりました

 滋賀大学彦根キャンパスで開催中の「はるかなる手紙展」は、2021年2月1 日より第3期「フランソワ・ギゾー」が始まりました。ギゾーが公教育大臣として執筆した、1833年の書簡を公開しています。コロナ禍の中、お越しになることが難しい方は、ウエッブでパンフレットを公開していますので、そちらをご覧ください。

本展示は昨年の1月から始まっていますが、コロナのために、ギャラリートークは3月を最後に中止になりました。以下の写真は、昨年1月から3月のギャラリートークの様子です。 

 早くコロナが収まって、またギャラリートークが再開できるようになることを祈っています。

EJHET 掲載論文 ワルラスは『国富論』をどう読んだのか?

 The European Journal of the History of Economic Thought 誌にアクセプトされた、ワルラスとアダム・スミスとの関係を探った私の論文が、紙媒体に先駆けて、2020年10月27日付でオンラインで公刊されました。この論文は、オープンアクセスなので、以下のリンクから、全文の参照およびダウンロードが可能です。

Kayoko Misaki, “Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith?,” The European Journal of the History of Economic Thought (Published on line, October 2020): 1–15, https://doi.org/10.1080/09672567.2020.1837198.

この論文は、ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査を手掛かりに、ワルラスとアダム・スミスとの知られざる影響関係を明らかにする考察です。ワルラスの一般均衡理論は、スミスの「見えざる手」を理論的に発展させたものというのが、経済学の教科書に書かれている、一般的な解釈ですが、そのような「常識」に真っ向から挑んだのが、この論文です。この解釈については実は、アダム・スミス研究者による多くの反論がありますが、ワルラス研究者からはこれまでまったく反論がなされていなかったのです。また逆にワルラスはスミスから影響を受けていないという、シュンペーターやジャッフェの解釈を覆すことも、この論文は意図しています。ジャーナルの査読の過程で、当初は想定していなかった、ワルラスとスミス『道徳感情論』との関係にまで考察を拡げることになり、論文の内容が大きく発展しました。アドバイスしてくれたレフェリーに感謝しています。

この論文が、オープンアクセスにより、経済学史研究の枠を超えて、様々な分野の経済学者に読まれ、実りある議論につながってゆくことを期待しています。