「はるかなる手紙」展 再開のお知らせ

コロナウィルス感染予防のために、2020年4月末から中断していた「はるかなる手紙ー滋賀大学所蔵フランスの貴重自筆書簡」展(御崎加代子監修)が再開することになりました。(ウエッブサイトはこちらです)第2期の展示は、経済学者レオン・セー(Léon Say, 1826 -1896)の1883年付の書簡と関連資料です。10月1日から来年の1月29日まで、展示します。当分の間、ギャラリートークは行いませんが、興味のある方は是非ご覧になってください。

 レオン・セーはフランスの財務大臣を3度つとめ、日本銀行の設立にも大きな影響力を及ぼした人物です。セーが活躍したのは、エッフェル塔など、現在の花の都パリの街並みが出来上がってゆく時代で、印象派の画家たちが活躍した時代でもあります。パリのオペラ座は、このころ流行した「ナポレオン3世様式」と呼ばれる典型的な建築例だとされていますが、今回は、私が以前、リヨンのアンティークショップで購入した「ナポレオン3世様式」のアンティーク銀食器も展示します! 

 

論文がアクセプトされました

2017年のESHETアントワープ大会で報告した、ワルラスとスミス『国富論』の関係についての考察を発展させた論文が、このたび、European Journal of the History of Economic Thought 誌にアクセプトされました。

この学会報告については、このサイトでもお知らせしました。また学会報告後、滋賀大学リスク研究センターのEnglish Lunch Seminarでも報告をしました。学会やセミナー当日、コメントや質問をしてくださった方々に感謝いたします。

学会での報告要旨は、Researchgateに掲載しています。ローザンヌ大学ワルラス文庫の『国富論』への書き込みを手掛かりに、「見えざる手」とワルラスの一般均衡理論を結び付ける教科書的な解釈に一石を投じ、ワルラスとスミスの知られざる影響関係を明らかにする論文です。掲載論文は、加筆修正を経て、最初のバージョンよりもかなり発展した内容になっています。

 ジャーナルに掲載されるのは、2021年6月の予定です。詳細について、またこのサイトでもお知らせします。

 

書評 J.M. Keynes vs. F.H. Knight: Risk, Probability, and Uncertainty, by Y. Sakai, 2019

滋賀大学名誉教授の酒井泰弘先生が2019年にSpringer社から出版された単行本についての私の書評 (英文)が『彦根論叢』の2020年夏号に掲載されました。電子ジャーナルで閲覧可能です。

(Book review) Kayoko MISAKI “Yasuhiro Sakai, J.M. Keynes Versus F.H. Knight: Risk, Probability, and Uncertainty, Springer, 2019″ The Hikone Ronso (Shiga University) No. 424 ( Summer 2020) pp. 132-133.

本書は、ケインズとナイトが1921年にそれぞれ発表した不確実性に関する著作の比較考察を軸に、リスクと不確実性に関する思想史を300年以上さかのぼるとともに今後の可能性を示唆しています。経済理論や思想史専門以外の読者にも興味深く読める内容です。

 この本を読んで、経済学において不確実性をどう取り扱うかという問題は、結局、自然科学と経済学の違いにどう対峙するのかという問題に収束していくということを再認識させられました。本書で取り上げられているヒックスの歴史と統計学の関係についての考え方にも感銘を受けました。

「はるかなる手紙」展(第一期 コルソン)解説パンフレット

滋賀大学彦根キャンパスで、2020年1月に始まった企画展「はるかなる手紙―滋賀大学所蔵フランス貴重自筆書簡」(御崎加代子監修)は、コロナの影響で、4月末より休止しています。完了した第1期(2020年1月~4月)の「クレマン・コルソン」の展示については、会場で配布していた解説パンフレットがウエッブで閲覧できます(リンクはこちらです)。興味のある方は、ぜひご覧ください。

第2期「レオン・セー」の展示の準備は整っていますが、いつから開始するかは未定です。コロナが一日も早く収束し、展示とギャラリートークが再開できる日を心待ちにしています。

(「はるかなる手紙展」開催案内ウエッブページのリンクはこちらです

科研費獲得しました

令和2年度科研費 基盤研究(C)に応募していた研究課題「ワルラスにおけるリスク・不確実性・企業者-一般均衡理論の思想史的解明」の交付内定通知がきました。4年間の研究プロジェクトです。

 このプロジェクトのテーマにかかわる基礎的な考察として、滋賀大学経済学部付属リスク研究センター(今年度より滋賀大学経済経営研究所に組織替え)より、「ワルラスにおける企業者利潤とリスクー経済学史の観点から」という研究課題で、今年度の助成金を受け、この助成金によって、来る6月にthe History of Economic Society (HES)の年次大会(於オランダ・ユトレヒト)で論文を発表するはずでした。しかしながら、新型コロナウィルスのために、残念ながらこの学会は中止となってしまいました。

 この論文の発表は、本科研費プロジェクトの重要な準備作業でもあると考えていましたが、このような不測の事態により、発表時期の変更を余儀なくされました。年度内に別の国際学会で発表することを計画中です。コロナウィルスの被害が早く収束し、研究活動が正常に戻ることを祈るばかりです。

貴重書展示 バスティアの自由放任主義

 滋賀大学附属図書館の貴重書展示コーナーの展示替えを行いました。2020年春の展示でとりあげるのは、19世紀の前半フランスで活躍した経済学者バスティア(Claude-Frédéric Bastiat, 1801–1850)です。

Frédéric Bastiat (1801-1850)

バスティアは、楽観的な社会的調和論と徹底的な自由貿易の主張により、現代では新自由主義の元祖のひとりとみなされています。アダム・スミスの経済学に影響をうけ、それをフランスに広めた経済学者としても有名です。しかしながらこのような極端な自由放任主義は、アダム・スミスの考え方とは、異なることにも注意をする必要があります。

  貴重書コーナーでは、本学図書館が所蔵する『バスティア全集』(全7巻、1854-1864)と、ルシェ訳『国富論』フランス語版初版(全4巻、1790)を展示します。

 『国富論』は、2011年、2015年、2017年にも展示しましたが、『バスティア全集』は今回が初めての展示です。本学で毎年春学期に開講している「経済学史」は、アダム・スミスの経済学から始めます。この講義を受講する人・受講した人は、ぜひこの展示に足を運んでみてください。

 展示の様子はこちらです。以下が、私の解説文の抜粋です。

 フランスの経済学者バスティア(Claude-Frédéric Bastiat, 1801–1850)は、極端な自由主義と自由貿易を主張したことで知られ、20世紀以降、新自由主義の元祖として言及されるようになった。またバスティアの著作は、明治維新後の日本において、いち早く翻訳され講義された経済学説としても重要である。
 バスティアは、1801年にフランスのバイヨンヌで生まれた。イギリスの穀物法論争に関心をもち、自由貿易運動に共鳴したバスティアは、1846年にボルドーとパリで自由貿易協会を設立し、1848年の2月革命時には、社会主義を批判した。1849年には、立法議会と憲法制定議会の議員に選出されたが、1850年、志半ばで死去した。
 バスティアは、自由放任こそが神の摂理として社会的調和をもたらすと考え、国家の役割に極めて批判的であり、保護主義を痛烈に批判した。主著は『経済的調和論(Harmonies Economiques)』(1850)である。バスティアは、アダム・スミスに影響を受け、その経済学をフランスに広めた一人でもあるが、その極端な自由放任主義は、スミスの考え方とはかなり異なっていることに注意しなければならない。

「はるかなる手紙」展 関連行事ご報告

 滋賀大学彦根キャンパスで開催中の「はるかなる手紙-滋賀大学所蔵フランスの貴重自筆書簡」展の第一期「クレマン・コルソン」の関連行事として、3月2-3日に、東京女子大学の栗田啓子教授を迎えて、講演会とスペシャルギャラリートークを行いました。参加してくださった皆さん、ありがとうございました。参加できなかった皆さん、大学のHPに当日の様子がアップされましたので、こちらをご覧ください。

2020年3月2日 経済学部講演会「第2世代のエンジニア・エコノミスト-クレマン・コルソンとエミール・シェイソン」 栗田啓子(東京女子大学副学長・教授)

2020年3月3日 ひなまつりスペシャルギャラリートーク(栗田啓子&御崎加代子)

「はるかなる手紙―滋賀大学所蔵フランス貴重自筆書簡」展ご案内

滋賀大学彦根キャンパスでは、企画展「はるかなる手紙―滋賀大学所蔵フランス貴重自筆書簡」(御崎加代子監修)を開催することになりました。

  • 第1期:2020年1月7日(火)~4月30日(木)クレマン・コルソン
  • 第2期:5月7日(木)~8月31日(月)レオン・セー
  • 第3期:9月2日(水)~12月25日(金) フランソワ・ギゾー

展示する3人のフランスの歴史的人物の書簡は、いずれも私が偶然発見し、フランスの専門家の助言を得て解読したものです。このうち、レオン・セーとギゾーの書簡については、このサイトでもご紹介しました。本展示では、書簡の紹介だけでなく、その歴史的背景や舞台となったパリの雰囲気も、関連図書やパネルなどを使ってお伝えしてゆきます。 ギャラリートークも私が担当します。ご関心のある方は、ぜひお越し下さい。 (開催案内ウエッブページはこちらです

国際ワルラス学会 AIW 2019 Lausanne での報告を終えて

 2019年9月13-14日にスイスのローザンヌ大学で開催された、第10回国際ワルラス学会 (The 10th Conference of the International Walras Association ) への参加を終えて、帰国しました。(プログラムはこちらです

 ローザンヌ大学のキャンパスは、郊外のレマン湖のほとりにあります。環境保護のため、キャンパス内には羊が放牧されていて、のどかな雰囲気です。

学会が行われたChâteau de Dorignyは、19世紀に、この土地を所有していた一族が建てた風情のある館です。

学会のテーマは、「ワルラスは新古典派か?」 « Walras—Neoclassical? » On Walrasian Historiographyでした。私は日本で初めてワルラスの翻訳を出版した経済学者、早川三代治の思想について報告をしました。

“Was Miyoji HAYAKAWA (1895–1962), the first Japanese translator of Walras, a neoclassical economist? “. (内容の一部をResearch Gate で公開しています)

 ワルラスやパレートがローザンヌ大学(旧ローザンヌ・アカデミー)で教えていたころ、校舎は、ローザンヌ旧市街にありました。1909年にワルラスの経済学者生活50周年記念祭(Jubilé) が行われたリュミーヌ宮(Palais de Rumine)は、現在、博物館と美術館になっていて、豪華な内部を、自由に見学することができます。リュミーヌ宮の横には、ワルラスをローザンヌに招いたスイスの政治家Louis Ruchonnet(1834-1893)の銅像があります。50周年記念祭で、ワルラスはこの政治家にちなんで「リュショネと科学的社会主義」という記念講演を行いました。

 またその記念祭の際に作られたワルラスのメダルは、旧ローザンヌ・アカデミー(Ancienne Académie de Lausanne)にあります。このメダルには、「レオン・ワルラスに。1834年エヴルーに生まれる。ローザンヌ大学教授。経済均衡の一般的条件を最初に確立し、それゆえ『ローザンヌ学派』の創設者となった。50年にわたる無私の研究をたたえて。」という碑文が添えられています。

 旧アカデミーは、16世紀に建てられた美しい建物ですが、現在は中学校の校舎として使われています。今回は、訪問したのが日曜日だったため、残念ながら中に入れずメダルの撮影はできませんでした。

 国際ワルラス学会の第1回目が開催されたのは1999年のパリで、今回は記念すべき10回目でした。名誉なことに私は、ローザンヌ大学ワルラス=パレート研究所長のBaranzini教授と共に、次期の副会長に選ばれました。実は、9月14日は私の誕生日で、ダブルで皆さんにお祝いしてもらい、とてもうれしかったです。

 本学会も世代交代が進み、多くの若い研究者の皆さんに参加してもらうために、いかに魅力的な学会に改革してゆくのかが、今後の課題です。次回の学会は日本で開催する可能性が高いです。日本の多くの研究者の皆さんが参加されることを祈っています。

貴重書展示 18世紀 英仏の財政危機

 滋賀大学附属図書館の貴重書展示コーナーの展示替えを行いました。2019年秋の展示は、18世紀にイギリスとフランスで出版された財政赤字をめぐる文献です。 1.ゴードン著『1688年から1751年にわたるイギリスの国債と租税の歴史』(1751-53)、2.ミラボー著『租税の理論』(1760)、3.コクロー著『テレー総監の下における財務行政についての覚書』(1776)の三点を展示しています。

 特に、1のゴードンの著書には、税収等の詳細な統計データが添付されています。18世紀の統計資料がどのようなものだったか、興味のある方は是非ご覧になってください。

以下が私の説明文の抜粋です。

16世紀以来、重商主義政策によって繁栄したヨーロッパの絶対主義国家は、激しい植民地戦争により軍事支出が増大し、深刻な財政赤字に直面することになった。 18世紀の半ばにイギリスで出版された、歴史家ゴードンの著作『1688年から1751年にわたるイギリスの国債と租税の歴史』(1751-53)は、豊富な統計データに基づき、均衡財政の重要性を説く書物である。この本はアダム・スミスの蔵書に含まれ、資金調達のための長期国債の発行を厳しく批判する『国富論』の財政理論に影響を与えた可能性も指摘されている。 フランスの財政状態はイギリスよりもさらに深刻であった。ミラボー(Mirabeau, V. R.,le marquis de, 1715-1789)の『租税の理論』(1760)は、重農学派の最初の体系的書物であり、同学派の「土地単一税」の構想(当時の複雑な税制をすべて廃止し、土地のみに課税するという考え方)が示されている。 ルイ15世の統治下最後の財務総監をつとめたテレー(Terray, L’abbé Joseph Marie, 1715-1778)も、在任中の1769年から1774年より様々な租税改革を実施し、国庫収入の増加に貢献したが、根本的な解決にはならなかった。重農学派に影響を受けたチュルゴはテレーの後、財務総監に就任するが、1776年失脚。結局、フランスは財政の立て直しに失敗し、革命への道をたどる。

展示の様子は図書館のこちらのページをごらんください。

次回の展示替えは来年の3月を予定しています