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Discussion Paper ワルラスのJ.B. セー批判:企業者と自由放任主義

 滋賀大学経済経営研究所からDiscussion Paper(英文)を発行しました。論文のファイルは、以下からダウンロード可能です

No.E-19 Date:2022.11 Title:Walras’s Critique of Jean Baptiste Say :Entrepreneur and Laissez-Faire Author:Kayoko MISAKI

ワルラスの一般均衡理論がセーの経済学、特に企業者理論から大きな影響を受けていることはよく知られていますが、ワルラスがセーとその後継者たちの自由放任主義を厳しく批判し、自分が自由放任主義者と誤解されることを恐れていたことはあまり知られていません。本論文の目的は、セーの影響下で、自らの企業者理論と一般均衡理論を構築したワルラスが、その理論をもって、どのように自由放任主義を批判したかを示すことです。

 このペーパーの内容を、これからさらに発展させ、来年、国際学会で報告する予定です。また最終稿は、2024年にRoutledgeから発行される予定の私の単行本 Léon Walras’s Economic Thought : The General Equilibrium Theory in Historical Perspectiveの第2章になる予定です。

 皆様からのコメントを歓迎します。

(追記)2023年5月21日 経済学史学会第87回全国大会 (専修大学)にてこの論文を発表しました。(「ワルラスのセー批判:企業者と自由放任」)。当日のセッションに参加してくださった皆様どうもありがとうございました。

GIDE 2022 Paris大会での報告

 2022年7月7日から9日まで、パリで開催された、シャルル・ジッド学会 第19回国際大会で、論文を発表しました。学会は、パンテオン広場にある、パリ第Ⅰ大学の由緒ある校舎で開催されました。

(プログラムはこちらです

3年ぶりのフランスでの学会報告でした。大会のテーマである、“Bonheurs et malheurs de l’agent économique” (経済主体の幸福と不幸)にちなんで、私は、ワルラスの共感概念について、報告をしました。論文では、ワルラスとアダム・スミスの共感概念の比較をしているので、スミスのセッションで報告することになり、スミス研究者から、貴重なコメントをもらうことができました。

フランスに到着してまずびっくりしたのは、マスクを着けている人がほとんどいなくて、コロナ以前の生活にほぼ戻っているということでした。さらに学校の夏休み期間に入っているので、空港や観光地は、欧米からの家族連れの観光客であふれかえっており、これまで見たことのないような混雑ぶりでした。

ただしコロナの感染者数は、フランスでも急増しており、学会直前に感染して、参加をキャンセルした人もいました。学会では、急遽、校舎内でのマスクの着用が推奨され、コーヒー・ブレイクやランチは、予定を変更して、屋内ではなく、中庭で提供されました。パリの気温は高かったですが、日本とは違って乾燥しているので、屋外での食事は、とても心地よかったです。

ウクライナでの戦争の影響による航路迂回により、日本とヨーロッパ間のフライト時間は普段より長く、また現地で帰国のための検疫書類の準備もしなくてはならず、いつもより疲れる出張でしたが、多くの研究者たちと再会の喜びを分かち合い、充実した時間を過ごすことができました。

GIDE 学会パリ大会で報告します

 2022年7月7日から9日まで、フランスのパリで開催される、シャルル・ジッド学会第19回国際大会で、論文発表することになりました。ジッド学会は、フランスの経済学者シャルル・ジッド(Charles Gide, 1847-1932)にちなんで設立された、経済思想を専門とする由緒ある学会です。

 今年の大会のテーマは、“Bonheurs et malheurs de l’agent économique” (経済主体の幸福と不幸)です。私は、“Walras on Sympathy” (ワルラスの共感概念)というタイトルの論文を発表します。(プログラムはこちらです)ワルラスの社会経済学の内容が中心になりますが、シャルル・ジッドはワルラスの社会経済学の数少ない理解者の一人だったので、不思議な縁を感じています。

 学会は、歴史的建造物であるパンテオンの校舎で行われます。

フランスで学会報告をするのは実に3年ぶりなので、多くの研究仲間に再会できることを楽しみにしています。

 

日本ベンチャー学会での講演

 2021年12月3日から5日まで日本ベンチャー学会(JASVE)第24回全国大会 が開催されました。私は5日の午後「シュンペーターとイノベーション:その歴史的・思想的背景」という講演をしました。この大会はハイブリッド方式で開催され、私は主催校である大阪経済大学から参加しました。対面形式で学会に参加したのは実に2年ぶりです。

経営学の学会に招かれたのは、これが初めてです。私の報告の意図は、シュンペーターの企業者概念を、彼が最も影響を受けたワルラスやその源流にあるセーやカンティロンなど、フランスにおける企業者概念の歴史から再考し、経営学におけるシュンペーターとカーズナーとの対比についても新たな理解方法を示すことでした。

 対話者の伊藤 博之氏(大阪経済大学教授)をはじめとして、参加者の皆さんから大変刺激的な質問とコメントをいただきました。私のこれまでの研究が、当初は予想していなかった分野で多くの方々の研究に役立つことがわかり、とてもうれしかったですし、ここで得た知見をもとに、私自身の研究もさらに発展しそうです。今後もこのような新しい挑戦を続けていきたいと思います。

国際ワルラス学会 AIW 2019 Lausanne での報告を終えて

 2019年9月13-14日にスイスのローザンヌ大学で開催された、第10回国際ワルラス学会 (The 10th Conference of the International Walras Association ) への参加を終えて、帰国しました。(プログラムはこちらです

 ローザンヌ大学のキャンパスは、郊外のレマン湖のほとりにあります。環境保護のため、キャンパス内には羊が放牧されていて、のどかな雰囲気です。

学会が行われたChâteau de Dorignyは、19世紀に、この土地を所有していた一族が建てた風情のある館です。

学会のテーマは、「ワルラスは新古典派か?」 « Walras—Neoclassical? » On Walrasian Historiographyでした。私は日本で初めてワルラスの翻訳を出版した経済学者、早川三代治の思想について報告をしました。

“Was Miyoji HAYAKAWA (1895–1962), the first Japanese translator of Walras, a neoclassical economist? “. (内容の一部をResearch Gate で公開しています)

 ワルラスやパレートがローザンヌ大学(旧ローザンヌ・アカデミー)で教えていたころ、校舎は、ローザンヌ旧市街にありました。1909年にワルラスの経済学者生活50周年記念祭(Jubilé) が行われたリュミーヌ宮(Palais de Rumine)は、現在、博物館と美術館になっていて、豪華な内部を、自由に見学することができます。リュミーヌ宮の横には、ワルラスをローザンヌに招いたスイスの政治家Louis Ruchonnet(1834-1893)の銅像があります。50周年記念祭で、ワルラスはこの政治家にちなんで「リュショネと科学的社会主義」という記念講演を行いました。

 またその記念祭の際に作られたワルラスのメダルは、旧ローザンヌ・アカデミー(Ancienne Académie de Lausanne)にあります。このメダルには、「レオン・ワルラスに。1834年エヴルーに生まれる。ローザンヌ大学教授。経済均衡の一般的条件を最初に確立し、それゆえ『ローザンヌ学派』の創設者となった。50年にわたる無私の研究をたたえて。」という碑文が添えられています。

 旧アカデミーは、16世紀に建てられた美しい建物ですが、現在は中学校の校舎として使われています。今回は、訪問したのが日曜日だったため、残念ながら中に入れずメダルの撮影はできませんでした。

 国際ワルラス学会の第1回目が開催されたのは1999年のパリで、今回は記念すべき10回目でした。名誉なことに私は、ローザンヌ大学ワルラス=パレート研究所長のBaranzini教授と共に、次期の副会長に選ばれました。実は、9月14日は私の誕生日で、ダブルで皆さんにお祝いしてもらい、とてもうれしかったです。

 本学会も世代交代が進み、多くの若い研究者の皆さんに参加してもらうために、いかに魅力的な学会に改革してゆくのかが、今後の課題です。次回の学会は日本で開催する可能性が高いです。日本の多くの研究者の皆さんが参加されることを祈っています。