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リヨンでセミナーを開催しました

 2023年2月22日、フランスのリヨンでセミナーを開催しました。テーマは、“Compatibility of Efficiency and Fairness : How Walras has been Misunderstood ?” (効率と公正との両立:ワルラスはどのように誤解されてきたのか?)です。( プログラムはこちら)

このセミナーの目的は、2024年にRoutledge社から刊行予定の私の著作 Léon Walras’s Economic Thought : The General Equilibrium Theory in Historical Perspective ( レオン・ワルラスの経済思想:歴史的観点からの一般均衡理論)の序章の内容を紹介することです。

 ワルラスは純粋・応用・社会経済学という3つの分野からなる自らの経済学体系によって、効率と公正との両立という極めて現代的な課題に挑もうとしていました。しかしながら20世紀には、ワルラスの意図は誤解され、純粋経済学(一般均衡理論)の理論的発展のみに力点が置かれました。ワルラスは決して単純な個人主義者、自由主義者ではなく、国家と個人の領域の区別や国家の市場介入について積極的に提言を行っています。そして純粋経済学では経済主体の満足極大化行動を前提としつつ、社会経済学においては人間性についてより深い考察を行っていました。セミナーでは、このような内容を中心に、この本のねらいと各章の要約を示しました。

 私を招聘してくれたのは、Rebeca Gomez Betancourt リヨン第2大学教授です (セミナー後に一緒に食事を楽しみました:上の写真)。セミナーには同大学の大学院生の皆さんやリヨン政治学院の学生さんが参加してくれました。私が長年お世話になっている、Jean-Pierre Potierリヨン第2大学名誉教授からは、私の本の構想そのものについて有益なコメントをたくさんいただき、うれしかったです。 またフランスの経済学史学界の重鎮 Ramon Tortajada教授が、特別ゲストとしてわざわざグルノーブルから参加してくださり、中身の濃い議論を交わすことができて、感激しました。

 このセミナーの成果を十分に生かし、少しでも良い本に仕上がるよう努力したいと思います。

(追記)2023年4月20日 本セミナーの報告は、滋賀大学経済経営研究所のディスカッションペーパー(No.E-24)として公刊されました。

GIDE 2022 Paris大会での報告

 2022年7月7日から9日まで、パリで開催された、シャルル・ジッド学会 第19回国際大会で、論文を発表しました。学会は、パンテオン広場にある、パリ第Ⅰ大学の由緒ある校舎で開催されました。

(プログラムはこちらです

3年ぶりのフランスでの学会報告でした。大会のテーマである、“Bonheurs et malheurs de l’agent économique” (経済主体の幸福と不幸)にちなんで、私は、ワルラスの共感概念について、報告をしました。論文では、ワルラスとアダム・スミスの共感概念の比較をしているので、スミスのセッションで報告することになり、スミス研究者から、貴重なコメントをもらうことができました。

フランスに到着してまずびっくりしたのは、マスクを着けている人がほとんどいなくて、コロナ以前の生活にほぼ戻っているということでした。さらに学校の夏休み期間に入っているので、空港や観光地は、欧米からの家族連れの観光客であふれかえっており、これまで見たことのないような混雑ぶりでした。

ただしコロナの感染者数は、フランスでも急増しており、学会直前に感染して、参加をキャンセルした人もいました。学会では、急遽、校舎内でのマスクの着用が推奨され、コーヒー・ブレイクやランチは、予定を変更して、屋内ではなく、中庭で提供されました。パリの気温は高かったですが、日本とは違って乾燥しているので、屋外での食事は、とても心地よかったです。

ウクライナでの戦争の影響による航路迂回により、日本とヨーロッパ間のフライト時間は普段より長く、また現地で帰国のための検疫書類の準備もしなくてはならず、いつもより疲れる出張でしたが、多くの研究者たちと再会の喜びを分かち合い、充実した時間を過ごすことができました。

国際ワルラス学会 AIW 2019 Lausanne での報告を終えて

 2019年9月13-14日にスイスのローザンヌ大学で開催された、第10回国際ワルラス学会 (The 10th Conference of the International Walras Association ) への参加を終えて、帰国しました。(プログラムはこちらです

 ローザンヌ大学のキャンパスは、郊外のレマン湖のほとりにあります。環境保護のため、キャンパス内には羊が放牧されていて、のどかな雰囲気です。

学会が行われたChâteau de Dorignyは、19世紀に、この土地を所有していた一族が建てた風情のある館です。

学会のテーマは、「ワルラスは新古典派か?」 « Walras—Neoclassical? » On Walrasian Historiographyでした。私は日本で初めてワルラスの翻訳を出版した経済学者、早川三代治の思想について報告をしました。

“Was Miyoji HAYAKAWA (1895–1962), the first Japanese translator of Walras, a neoclassical economist? “. (内容の一部をResearch Gate で公開しています)

 ワルラスやパレートがローザンヌ大学(旧ローザンヌ・アカデミー)で教えていたころ、校舎は、ローザンヌ旧市街にありました。1909年にワルラスの経済学者生活50周年記念祭(Jubilé) が行われたリュミーヌ宮(Palais de Rumine)は、現在、博物館と美術館になっていて、豪華な内部を、自由に見学することができます。リュミーヌ宮の横には、ワルラスをローザンヌに招いたスイスの政治家Louis Ruchonnet(1834-1893)の銅像があります。50周年記念祭で、ワルラスはこの政治家にちなんで「リュショネと科学的社会主義」という記念講演を行いました。

 またその記念祭の際に作られたワルラスのメダルは、旧ローザンヌ・アカデミー(Ancienne Académie de Lausanne)にあります。このメダルには、「レオン・ワルラスに。1834年エヴルーに生まれる。ローザンヌ大学教授。経済均衡の一般的条件を最初に確立し、それゆえ『ローザンヌ学派』の創設者となった。50年にわたる無私の研究をたたえて。」という碑文が添えられています。

 旧アカデミーは、16世紀に建てられた美しい建物ですが、現在は中学校の校舎として使われています。今回は、訪問したのが日曜日だったため、残念ながら中に入れずメダルの撮影はできませんでした。

 国際ワルラス学会の第1回目が開催されたのは1999年のパリで、今回は記念すべき10回目でした。名誉なことに私は、ローザンヌ大学ワルラス=パレート研究所長のBaranzini教授と共に、次期の副会長に選ばれました。実は、9月14日は私の誕生日で、ダブルで皆さんにお祝いしてもらい、とてもうれしかったです。

 本学会も世代交代が進み、多くの若い研究者の皆さんに参加してもらうために、いかに魅力的な学会に改革してゆくのかが、今後の課題です。次回の学会は日本で開催する可能性が高いです。日本の多くの研究者の皆さんが参加されることを祈っています。

ESHET 2019 Lille での報告を終えて

5月23日から25日まで、フランスのリールで開催された The European Society for the History of Economic Thought の年次大会(学会のサイトはこちら)での報告を終えて、帰国しました。

 学会が開かれたリール政治学院(Sciences Po Lille) は、フランスのエリート養成機関グランゼコールのひとつで、いろいろな点で格式の高さを感じました。歴史的な建築がモダンな要素と美しく融合した校舎でした。

私はこの大会の一日目に、イスナールとワルラスに関する論文 ”Numéraire, Workers, and the Tax system: Was Isnard a precursor of Walras?”を発表しました。(詳しい内容についてはこちらの記事)。この論文の内容に最も関係する、 Richard Van den Berg氏ご本人にもセッションに来ていただき、有益なコメントがもらえました。また大会三日目には、 Amos Witztum 教授( London School of Economics)の論文 Equilibrium: Coordination of what? Smith, Walras and Modern Economics の討論者も務めました。

 3日間の学会スケジュールはいろいろな行事が盛り込まれ、とてもハードでしたが、フランスが会場だったこともあり、食事がとてもおいしかったです。ランチもきちんと一人ずつサーブしてもらい、立食形式ではなくテーブルに座ってゆっくりと食べられました。前菜からデザートまで大満足でした。

 ホテルから学会会場まで、毎日20分程度歩いて通いました。日が長いので夜の9時を過ぎても明るかったです。ただリールの旧市街は迷路のようになっていて、毎日どこかで迷子になりました(笑)。

 今回のフランス出張の最大の収穫は、実に数多くの研究者たちと交流ができ、影響を受けることができたことです。これを糧に、また次の研究プロジェクトに取り掛かりたいと思います。

ASSA 2019 Atlanta ワルラス・セッションで討論者をつとめる

2019年最初の研究活動です。1月4日から6日まで、アメリカ経済学会(American Economic Association) の年次大会 ASSA 2019 アトランタ大会に参加しました。ワルラスに関するセッションで、Discussantを務めるためです。(大会ホームページはこちら

毎年新年に開かれるこの大会は、59の学会・団体が共同で実施し、全米のみならず世界中から多くの経済学者たちが参加する、とてつもない規模の会合です。今回は、アトランタ中心部の連結した3つのホテルが会場となりましたが、会場内を移動するだけで、毎日歩数が1万歩を超えてびっくりしました(笑)。

私が参加したセッションのタイトルは、”Pure Mind, Applied Vision, and Social Conscience: Revisiting the Economics of Léon Walras”です。(プログラムはこちら)セッションの報告者のうち、Guy Numa氏は新進気鋭の若手研究者ですが、それ以外の3人、 Franco Donzelli教授、 Alan Kirman教授、 Roger Guesnerie 教授は、それぞれこの分野の大御所ともいうべき人物で(フランスを代表する理論経済学者Guesnerie 教授は、トマ・ピケティ氏の指導教授としても知られています)いわばスターが一同に会する夢のようなセッションでした。ここに討論者として参加できたことは、大変名誉なことだと思っています。

(セッションの様子は、友人のRebecca Gomez Betancourt リヨン第2大学教授が撮影してくれました。彼女のTwitterにも同じ写真が投稿されています)

私は、このセッションの第2報告、 Franco Donzelli教授 の”Walras’s Theories of Exchange and Production Equilibrium in the 1870s and Beyond”という論文の討論者をつとめました。ワルラスの一般均衡理論の形成過程に新しい光を当てたとても面白い論文ですが、分量が69頁もあり内容も難解だったため、コメントを用意するのに時間がかかり、年末年始、全く休むことができませんでした(涙)。 しかしこのコメントは、苦労して用意した甲斐があり、 Donzelli教授を含め、参加者たちからは好評でした。実はこの論文は内容が難しすぎて、短い報告時間で聴衆に理解してもらうのはほとんど不可能だったため、私の解説コメントがみんなの役に立ったようなのでした。

アトランタ滞在中は、CNNセンターに隣接したホテルに泊まりました。18階の客室からオリンピック記念公園が一望できました。アトランタに滞在するのは実は今回が2回目ですが、日本から直接行ったのは初めてです。大阪からアトランタまで、乗り継ぎ時間を含めると片道20時間以上かかる長旅で、とても疲れました。日本に帰ってきて、ほっとしています。