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『組織科学』招待論文「ワルラスからシュンペーターへ―アントレプレナーシップの歴史的・思想的背景―」

 2022年12月20日に公刊された『組織科学』第56巻2号に私の論文が掲載されました。特集号「拡張するアントレプレナーシップ研究~源流とフロンティア~」への招待論文です。

御崎加代子「ワルラスからシュンペーターへ―アントレプレナーシップの歴史的・思想的背景―」『組織科学』第56巻2号(2022年12月)pp.4-14.

 この論文の目的は、イノベーション論の元祖とされるシュンペーターの企業者概念の特徴と意義を、彼が最も影響を受けた経済学者ワルラス、さらにはその源流に位置するJ.Bセーやカンティロンなど、フランスにおける企業者概念の歴史から考察し、現代のアントレプレナーシップ論の歴史的・思想的背景を明らかにすることであり、経営学においてシュンペーターとよく比較されるカーズナーの企業家論についても、ワルラス批判という観点から考察しています。内容は、2021年12月の日本ベンチャー学会での講演を発展させたもの(記事はこちら)です。

私がこれまで取り組んできたフランス経済学史とアントレプレナーシップをとりまく思想史の研究成果が、経営学のトップジャーナルに掲載され、たいへんうれしく思うとともに、本テーマの学際的な広がりと発展可能性に大いに刺激を受けました。研究をさらに深めてゆきたいと考えています。

なおこの論文については、滋賀大学のHPでも紹介 されました。

(追記)2023年3月1日 本論文はJstageで公開されました。

 

Discussion Paper ワルラスのJ.B. セー批判:企業者と自由放任主義

 滋賀大学経済経営研究所からDiscussion Paper(英文)を発行しました。論文のファイルは、以下からダウンロード可能です

No.E-19 Date:2022.11 Title:Walras’s Critique of Jean Baptiste Say :Entrepreneur and Laissez-Faire Author:Kayoko MISAKI

ワルラスの一般均衡理論がセーの経済学、特に企業者理論から大きな影響を受けていることはよく知られていますが、ワルラスがセーとその後継者たちの自由放任主義を厳しく批判し、自分が自由放任主義者と誤解されることを恐れていたことはあまり知られていません。本論文の目的は、セーの影響下で、自らの企業者理論と一般均衡理論を構築したワルラスが、その理論をもって、どのように自由放任主義を批判したかを示すことです。

 このペーパーの内容を、これからさらに発展させ、来年、国際学会で報告する予定です。また最終稿は、2024年にRoutledgeから発行される予定の私の単行本 Léon Walras’s Economic Thought : The General Equilibrium Theory in Historical Perspectiveの第2章になる予定です。

 皆様からのコメントを歓迎します。

(追記)2023年5月21日 経済学史学会第87回全国大会 (専修大学)にてこの論文を発表しました。(「ワルラスのセー批判:企業者と自由放任」)。当日のセッションに参加してくださった皆様どうもありがとうございました。

貴重書展示 レオン・ワルラスの自筆書簡

 滋賀大学附属図書館の貴重書展示コーナーの展示替えを行いました。2022年秋の展示は、滋賀大学が所蔵するレオン・ワルラスの(Léon Walras, 1834-1910)の自筆書簡2通(1898年7月19日付と1901年6月29日付)です。
 現在、ワルラスの重要書簡の大部分は、ワルラス研究者ウィリアム・ジャッフェが1965年に公刊した書簡集(全3巻)に収められていますが、今回展示する2通の書簡は、この書簡集には収められていないものです。1898年7月19日付の書簡についての詳細な解説は、『彦根論叢』第434号(2023年1月・冬号)に「資料紹介」として、掲載される予定です。

 展示の様子と私の解説文はこちらをご覧ください。展示コーナーには、この書簡のテキストと和訳も展示してあります。

 

(追記)

1.2022年12月10日に 経済学史学会第182回関西部会(オンライン開催 中京大学)で、この書簡について報告をしました。参加者の皆さんから貴重なコメント、質問をいただきました。ありがとうございました。

2.2023年1月に『彦根論叢』に掲載されました。(資料紹介)「滋賀大学図書館所蔵 レオン・ワルラスの書簡(1898年7月19日付)」『彦根論叢』第434号(2023年冬)62-67.

Most read articles

 The European Journal of the History of Economic Thoughtの2021年6月号 Volume 28, Issue 3がこのたび公刊されました。ワルラスとスミス『国富論』の関係を論じた私の論文がこの号に掲載されています。

Kayoko MISAKI “Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith?,” The European Journal of the History of Economic Thought 28-3, 2021, 404 – 418 (published on line, October 2020): https://doi.org/10.1080/09672567.2020.1837198.

この論文はすでに昨年の10月にオンライン上で公刊されており、このサイトでも論文の内容とともにお知らせしました(記事はこちら)。現在、この論文は、このジャーナルの Most read articles (最も読まれている論文)の10番目にランクインしています。経済学史のトップジャーナルのひとつに論文が掲載されたこともうれしいですが、経済学史の分野を超えて多くの皆さんに論文が読まれていることも大変うれしいです。今後はこの論文が末永く、多くの研究者に引用されることを願っています。

EJHET 掲載論文 ワルラスは『国富論』をどう読んだのか?

 The European Journal of the History of Economic Thought 誌にアクセプトされた、ワルラスとアダム・スミスとの関係を探った私の論文が、紙媒体に先駆けて、2020年10月27日付でオンラインで公刊されました。この論文は、オープンアクセスなので、以下のリンクから、全文の参照およびダウンロードが可能です。

Kayoko Misaki, “Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith?,” The European Journal of the History of Economic Thought (Published on line, October 2020): 1–15, https://doi.org/10.1080/09672567.2020.1837198.

この論文は、ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査を手掛かりに、ワルラスとアダム・スミスとの知られざる影響関係を明らかにする考察です。ワルラスの一般均衡理論は、スミスの「見えざる手」を理論的に発展させたものというのが、経済学の教科書に書かれている、一般的な解釈ですが、そのような「常識」に真っ向から挑んだのが、この論文です。この解釈については実は、アダム・スミス研究者による多くの反論がありますが、ワルラス研究者からはこれまでまったく反論がなされていなかったのです。また逆にワルラスはスミスから影響を受けていないという、シュンペーターやジャッフェの解釈を覆すことも、この論文は意図しています。ジャーナルの査読の過程で、当初は想定していなかった、ワルラスとスミス『道徳感情論』との関係にまで考察を拡げることになり、論文の内容が大きく発展しました。アドバイスしてくれたレフェリーに感謝しています。

この論文が、オープンアクセスにより、経済学史研究の枠を超えて、様々な分野の経済学者に読まれ、実りある議論につながってゆくことを期待しています。