Presentations

ワルラスとイスナール

ESHET2017アントワープ大会で初めて会った研究者のひとりに、Richard van den Berg教授がいますvan den Berg教授は2006年にフランスの数理経済学者イスナール (1748-1803)についての研究書を公刊し、私は2007年にその書評を日本語で発表しました。「(書評) Richard van den Berg: At the Origins of Mathematical Economics: The Economics of A.N. Isnard (1748-1803), Routledge, 2006」『経済学史研究』49-1 (June, 2007)pp.192-193.

またこの著作に大いに刺激を受けて、私自身、ワルラスとイスナールとの関係についての研究に取り組みました。通説によれば、イスナールはワルラス一般均衡理論の先駆者であるということになっていますが、研究を進めるうちに問題はそれほど単純ではないことが分かってきました。通説を真っ向から批判する私の解釈は、  2009年の9月にローザンヌ大学ワルラス=パレート研究所で実施したセミナー“Walras and Isnard: Continuity and Discontinuity in the History of Economic Thought”で報告しました。しかしながらこの研究成果は、色々な事情で英語での公刊に至らず、日本語論文としてまとめたものを大学の紀要で発表するにとどまりました。「ワルラスとイスナール‐経済学史における連続と断絶」『滋賀大学経済学部研究年報』16, 2009, pp.101-112. 今回、これらのいきさつをすべてvan den Berg教授に、伝えることができました。

イスナール富論1781

ローザンヌ大学ワルラス文庫所蔵 イスナール『富論』1781

なお、日本語でしか公刊できなかった私のイスナール研究の成果は、最近、意外な形で日の目を見ることになりました。ローザンヌ大学での私のセミナーでの主張が、2016年に公刊された経済学史の教科書(3巻本)の「一般均衡理論」の章において、Alain Kirman教授によって、van den Berg教授の研究とともに紹介されています。Gilbert Faccarello,Heinz D. Kurz (eds.) Handbook on the History of Economic Analysis, Volume III, Developments in Major Fields of Economics, Edward Elgar Publishing. 2016

ESHET 2017 アントワープ大会での報告を終えて

2017年5月18日から20日までアントワープで開催された、ESHET (European Society for the History of Economic Thought ) の年次大会での報告を終えて帰国しました。

2017-05-21 14.07.31

ヨーロッパで一番美しい駅として知られるアントワープ中央駅

 学会が開催されたアントワープ大学は、由緒ある歴史的建築の校舎に囲まれた大変美しいキャンパスでした。残念ながら、大会開催中はずっと小雨が続きました。

 

私は、ワルラスがスミスの『国富論』をどう読んだかという問題を扱った論文 “Léon Walras on The Wealth of Nations— What did he learn from Adam Smith?” を発表しました。討論者のJ.P.Potier教授や、セッションに参加した皆さんから貴重なコメントをいただきました。

また David Andrews教授の“Laissez faire and the rationality of nature: A critique of Michel Foucault’s interpretation of Adam Smith”という論文の討論者も務めました。大きな学会では、必ずしも自分の専門テーマではない論文の討論者に振られることもあり大変ですが、勉強になることも確かです。(学会プログラムはこちらです)

 

学会最終日のパーティは、アントワープ市庁舎で行われました。市庁舎の外観や広場の眺めも素晴らしいですが、内部の絢爛豪華な装飾は息をのむほどの美しさでした。特に市庁舎の大きな窓から眺めるアントワープの聖母大聖堂は圧巻でした。アントワープ市民は普通、この部屋で結婚の手続きをする際にのみこの光景を見ることができるという説明をうけました。

 

アントワープ大聖堂は、物語『フランダースの犬』で主人公のネロと愛犬パトラッシュが最後に天に召された場所として、日本ではよく知られています。今回訪問するのは2度目でしたが、心を洗われるような美しい建築と、ルーベンスの巨大な宗教画に改めて感動しました。

 

3日間の学会で、ヨーロッパの多くの研究者たちと再会し、また新しく知り合った研究者たちとも有益な議論ができました。これをきっかけに、また新たな国際共同研究プロジェクトが始まることを期待しています。

ESHET 2017 アントワープ大会で報告します

2017年5月18日から20日まで、ベルギーのアントワープで、ESHET (European Society for the History of Economic Thought ) の第21回年次大会が開催されます。(プログラムはこちら

この学会で、ワルラスが『国富論』をどう読んだかというテーマで研究発表をすることになりました (Léon Walras on The Wealth of Nations— What did he learn from Adam Smith?) 。この論文は、ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査の成果の第一弾にあたり、スミスの「見えざる手」とワルラスの一般均衡理論を結び付ける教科書的解釈にも一石を投じることを意図しています。

 

なおこの学会での報告内容を、専門家ではない方々でも理解できるように要約して、6月15日に滋賀大学リスク研究センターのEnglish Lunch Seminar で発表する予定です。学内の方々の参加をお待ちしています。

リヨンでのセミナーを終えて

2017年最初の研究活動です。1月13日、リヨンのトリアングル研究所で、Japanese Walrasian Economists on Walras’s Social Economics : Introduction to the Japanese Translation of Études d’économie sociale de Léon Walrasというテーマでセミナーを実施しました。(プログラムはこちら

セミナーでは主に、ワルラスを日本語に翻訳・紹介した3人の経済学者たちー手塚寿郎、早川三代治、久武雅夫と、日本を代表するワルラシアン経済学者ー森嶋通夫をとりあげ、彼らがワルラスの社会経済学およびワルラスの科学的社会主義・社会正義観をどうとらえていたかという話をしました。

当日は、このセミナーに私を招聘してくれたRebeca Gomez Betancourt氏をはじめとするリヨン第2大学教授の皆さんたちのほかに、同大学の名誉教授であり『ワルラス全集』の編者でもある Pierre Dockès 教授とJean-Pierre Potier教授、トリアングル研究所の元所長のGérard Klotz教授も、セミナーに参加してくれました。また今回は、研究者や博士課程の学生さんだけでなく、修士課程の学生さんたちも多く出席してくれたことが、とても印象的でした。

さてリヨンという町は、現在のフランスの首都パリよりもずっと古い歴史をもち、古代ローマ時代はガリア地方の首都でした。中世以降は、金融業や絹織物業で栄え、旧市街の美しい街並みはそのままユネスコの世界遺産に指定されています。この繁栄を支えた絹織物業にかかわる史跡が、職工たちが住んでいたクロワルッスの丘に主に残っています。

Cours des Voraces は、1830年代と1848年の2月革命のときに絹織物の職工たちが、賃金や労働条件を巡って闘った場所として有名です。

「ジャカード織機」で有名なジャカール(Joseph Marie Jacquard,1752-1834) の銅像です。彼の発明した機械の導入によって職を失うことを恐れた労働者たちが、最初、激しい抵抗運動を繰り広げたといわれていますが、結局は生産性の向上につながることから、広く採用されるようになりました。銅像には、「Bienfaiteur des ouvriers en soie 絹の労働者たちの恩人」という文言が刻まれています。

クロワルッスの丘には、「ジャン=バティスト・セー通り」があります。「セー法則」でおなじみの経済学者 J.B.セー(Jean-Baptiste Say, 1767-1832) はリヨンの絹織物商の家に生まれました。この通りからコルベール広場に入ると、眼下にリヨンの絶景が広がります。

今回の滞在期間中、フランスは大寒波に見舞われており、リヨンでも珍しく雪が積もったほどでした。また日本に比べて日も短く、あまり散歩をたのしめる気候ではなかったのが残念です。

1月13日 リヨンでセミナーを開きます

2017年1月13日、フランスのリヨンでセミナーを開催します。報告タイトルは、「日本のワルラシアン経済学者たちはワルラスの社会経済学をどうとらえていたか:ワルラス『社会経済学研究』日本語訳への序文」です。« Japanese Walrasian Economists on Walras’s Social Economics : Introduction to the Japanese Translation of Études d’économie sociale de Léon Walras »

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ワルラス『社会経済学研究』初版(1896)

サブタイトルの通り、内容は、私がとりくんでいるワルラスの大著『社会経済学研究』(1896)の日本語訳の解題として準備してきたものです。この著作は、ワルラスの経済学と思想を理解する上では不可欠であることはよく知られていますが、未完の大著ということもあり、その内容はフランス人でも理解するのが難しいといわれています。2010年に初めての英訳が出版されましたが、正確さという意味ではあまり評判がよくありません。私はもう6年以上前からこの翻訳に取り組んでいますが、予想以上に苦戦を強いられています。今年度、この翻訳に集中的に取り組むため、大学よりサバティカル(研究休暇)を取得しました。このセミナーもその研究計画の一部に含まれています。

さてセミナーを開くリヨンの「トリアングル」という研究組織は、私にとって大変なじみのある場所です。2000年から2001年まで文部省(当時)の長期在外研究員としてリヨン第2大学に滞在した際には、ここは「ワルラス研究所」という名前で、その名の通り、ワルラス研究のメッカでした。その後、組織替えで名前が変わりましたが、私は客員研究員として、頻繁にここを訪れました。ここでセミナーを開くのは今回が3回目ですが、なにしろ7年ぶりなので、世代交代が進んでおり、多くの若い研究者たちとは初対面になります。

私のセミナーのプログラムはこちらです。

ローザンヌ大学・国際労働機関 ILO 共催のワークショップで論文発表

2016年9月29-30日にローザンヌ大学で開催されたワークショップ-The Wage Workshop, Theoretical, Empirical and Historical Perspective on Wage, Subsistence and Basic Incomeで、ワルラスの労働市場観に関する論文を発表しました。

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ワークショップが開かれたローザンヌ大学 Château de Dorigny

このワークショップの主なテーマは「最低賃金」でした。経済学史研究者だけでなく、理論経済学者、労働経済学者、ILOに所属するエコノミストたちが参加しており、それぞれの観点から、興味深い報告をしました。参加者の大部分とは初対面で、異なる専門分野の研究者たちと有意義な交流ができました。

報告した論文のタイトルは、「レオン・ワルラスの純粋・社会・応用経済学における労働市場の概念」Léon Walras’ Concept of Labor Market in his Pure, Social, and Applied Economicsです。この論文は来年、某ジャーナルに掲載される予定です。