ESHET 2019 Lille での報告を終えて

2019年5月23日から25日まで、フランスのリールで開催された The European Society for the History of Economic Thought の年次大会(学会のサイトはこちら)での報告を終えて、帰国しました。

 学会が開かれたリール政治学院(Sciences Po Lille) は、フランスのエリート養成機関グランゼコールのひとつで、いろいろな点で格式の高さを感じました。歴史的な建築がモダンな要素と美しく融合した校舎でした。

私はこの大会の一日目に、イスナールとワルラスに関する論文 ”Numéraire, Workers, and the Tax system: Was Isnard a precursor of Walras?”を発表しました。(詳しい内容についてはこちらの記事)。この論文の内容に最も関係する、 Richard Van den Berg氏ご本人にもセッションに来ていただき、有益なコメントがもらえました。また大会三日目には、 Amos Witztum 教授( London School of Economics)の論文 Equilibrium: Coordination of what? Smith, Walras and Modern Economics の討論者も務めました。

 3日間の学会スケジュールはいろいろな行事が盛り込まれ、とてもハードでしたが、フランスが会場だったこともあり、食事がとてもおいしかったです。ランチもきちんと一人ずつサーブしてもらい、立食形式ではなくテーブルに座ってゆっくりと食べられました。前菜からデザートまで大満足でした。

 ホテルから学会会場まで、毎日20分程度歩いて通いました。日が長いので夜の9時を過ぎても明るかったです。ただリールの旧市街は迷路のようになっていて、毎日どこかで迷子になりました(笑)。

 今回のフランス出張の最大の収穫は、実に数多くの研究者たちと交流ができ、影響を受けることができたことです。これを糧に、また次の研究プロジェクトに取り掛かりたいと思います。

ASSA 2019 Atlanta ワルラス・セッションで討論者をつとめる

2019年最初の研究活動です。1月4日から6日まで、アメリカ経済学会(American Economic Association) の年次大会 ASSA 2019 アトランタ大会に参加しました。ワルラスに関するセッションで、Discussantを務めるためです。(大会ホームページはこちら)

毎年新年に開かれるこの大会は、59の学会・団体が共同で実施し、全米のみならず世界中から多くの経済学者たちが参加する、とてつもない規模の会合です。今回は、アトランタ中心部の連結した3つのホテルが会場となりましたが、会場内を移動するだけで、毎日歩数が1万歩を超えてびっくりしました(笑)。

私が参加したセッションのタイトルは、”Pure Mind, Applied Vision, and Social Conscience: Revisiting the Economics of Léon Walras”です。(プログラムはこちら)セッションの報告者のうち、Guy Numa氏は新進気鋭の若手研究者ですが、それ以外の3人、 Franco Donzelli教授、 Alan Kirman教授、 Roger Guesnerie 教授は、それぞれこの分野の大御所ともいうべき人物で(フランスを代表する理論経済学者Guesnerie 教授は、トマ・ピケティ氏の指導教授としても知られています)いわばスターが一同に会する夢のようなセッションでした。ここに討論者として参加できたことは、大変名誉なことだと思っています。

(セッションの様子は、友人のRebecca Gomez Betancourt リヨン第2大学教授が撮影してくれました。彼女のTwitterにも同じ写真が投稿されています)

私は、このセッションの第2報告、 Franco Donzelli教授 の”Walras’s Theories of Exchange and Production Equilibrium in the 1870s and Beyond”という論文の討論者をつとめました。ワルラスの一般均衡理論の形成過程に新しい光を当てたとても面白い論文ですが、分量が69頁もあり内容も難解だったため、コメントを用意するのに時間がかかり、年末年始、全く休むことができませんでした(涙)。 しかしこのコメントは、苦労して用意した甲斐があり、 Donzelli教授を含め、参加者たちからは好評でした。実はこの論文は内容が難しすぎて、短い報告時間で聴衆に理解してもらうのはほとんど不可能だったため、私の解説コメントがみんなの役に立ったようなのでした。

アトランタ滞在中は、CNNセンターに隣接したホテルに泊まりました。18階の客室からオリンピック記念公園が一望できました。アトランタに滞在するのは実は今回が2回目ですが、日本から直接行ったのは初めてです。大阪からアトランタまで、乗り継ぎ時間を含めると片道20時間以上かかる長旅で、とても疲れました。日本に帰ってきて、ほっとしています。

Œconomia掲載 ワルラスの労働市場観に関する論文

2018年最後の研究業績の公刊です。「ワルラスの純粋・社会・応用経済学の労働市場観」という論文が、フランスの査読ジャーナル Œconomia誌の12月号に掲載されました。

Kayoko Misaki, « The Concept of Labor Market in Léon Walras’ Pure, Social, and Applied Economics », Œconomia, 8-4 | 2018, 419-438.

(電子ジャーナルはこちらです。論文の本文はこちらをクリックしてください)

ワルラスは労働組合の賃上げ闘争や最低賃金制度の導入などに生涯反対し、市場原理による賃金決定を擁護し続けました。このことから、ワルラスの労働市場観は新古典派的と考えるのがこれまでの常識でしたが、この論文はそのような解釈を覆すことを意図しています。ワルラスのプルードンやマルクスに対する批判もヒントに、教科書的な解釈では触れらないワルラスの真の意図を明らかにしました。

この論文は、2016年9月に参加した、ローザンヌ大学/ILOの賃金問題ワークショップでの発表が元になっています(記事はこちら)。ワークショップの後、このジャーナルから誘いを受けて、投稿したのですが、二人のレフェリーから非常に厳しい査読意見がつきました。書き直しに予想以上に苦労させられ、まるで院生時代に戻ったような気分でした(涙)。しかし結果として、内容が格段に良くなり、レフェリーにはとても感謝しています。

CFP 国際ワルラス学会 AIW 2019 Lausanne

国際ワルラス学会 The International Walras Association の第10回目の大会が2019年の9月にローザンヌ大学で開催されることになり、このたび Call for Papers (論文募集案内)が発表されました(ウエッブ・サイトはこちらです)。私は、その大会の Scientific Committee (プログラム委員会)の一員を務めることになりました。

大会のテーマは ”Walras- Neoclassical?” 「ワルラスは新古典派か?」です。経済学の教科書でおなじみの、限界革命のトリオとしてのワルラス、新古典派の元祖としてのワルラスという解釈を、今一度問い直すという、大変刺激的なテーマになっています。今回は、ワルラス以外の新古典派経済学者のみを取り上げてもよいことになっており、ワルラス研究の枠を超えて様々な研究者たちと交流できることが楽しみです。ちなみに私は日本で最初にワルラスの翻訳を公刊した経済学者、早川三代治について報告する予定です。

国際ワルラス学会 AIWは1997年に結成され、これまで大体2年ごとに大会を開催してきました。今回は前回のパリ大会から4年ぶりで、しかも記念すべき第10回大会です。これまでに会長を務めた者は私も含めて全員、今回のプログラム委員会に参加していますが、これは大変意義のあることだと考えています。日本からも多くの方がAIW2019ローザンヌ大会に参加されることを希望しています。

ESHET 2018 Madridでの報告を終えて

2018年6月7日から9日までスペインのマドリッドで開催された、European Society for the History of Economic Thought(ESHET) の第22回年次大会での論文報告を終えて帰国しました。

会場となったマドリッド・コンプルテンセ大学は15世紀に設立された由緒ある大学で、18世紀にはいち早く女性に博士号を与えたことでも知られています。今回の学会は、郊外にあるSomosaguasキャンパスで開催されました。マドリッド中心部からは地下鉄やトラムを使って移動する必要があり、少し不便でした。

私は二日目のセッションで、‟Léon Walras on the Worker-Entrepreneur”(詳しい内容はこちら)という論文を発表しました。聴衆はそれほど多くありませんでしたが、制限時間内にすべて返答できないほど、多くのコメントと質問がありました。予想していた通り、この論文は、J.B.セーの専門家にとってたいへん興味深かったようです。

学会のディナー・パーティは、服飾博物館内にある有名レストラン Café de Orienteで開催されました。スペインの夕食は一般的に遅いのですが、このディナーも9時に始まりました。6月は日が長いので夜9時でもまだまだ明るかったです。1時間ほどは戸外でアペリティフを楽しみ、コース料理が始まったのは10時頃、デザートを終えると12時を過ぎていました。この夜はたいへん寒かったうえ、慣れない深夜の食事で胃腸が悲鳴をあげそうでした。

学会開催中、多くの研究者たちと再会し、また新たに知り合った研究者たちと研究情報を交換することができました。新たなプロジェクトへの誘いも受け、私の研究活動にとってはたいへん有意義な機会となりました。

ただ今回の出張は、帰国便が航空会社の突然のストでキャンセルになるなど、様々なハプニングに見舞われ、正直言って疲れ果ててしまいました。日本に帰って来れてほっとしています。