『組織科学』招待論文「ワルラスからシュンペーターへ―アントレプレナーシップの歴史的・思想的背景―」

 2022年12月20日に公刊された『組織科学』第56巻2号に私の論文が掲載されました。特集号「拡張するアントレプレナーシップ研究~源流とフロンティア~」への招待論文です。

御崎加代子「ワルラスからシュンペーターへ―アントレプレナーシップの歴史的・思想的背景―」『組織科学』第56巻2号(2022年12月)pp.4-14.

 この論文の目的は、イノベーション論の元祖とされるシュンペーターの企業者概念の特徴と意義を、彼が最も影響を受けた経済学者ワルラス、さらにはその源流に位置するJ.Bセーやカンティロンなど、フランスにおける企業者概念の歴史から考察し、現代のアントレプレナーシップ論の歴史的・思想的背景を明らかにすることであり、経営学においてシュンペーターとよく比較されるカーズナーの企業家論についても、ワルラス批判という観点から考察しています。内容は、2021年12月の日本ベンチャー学会での講演を発展させたもの(記事はこちら)です。

私がこれまで取り組んできたフランス経済学史とアントレプレナーシップをとりまく思想史の研究成果が、経営学のトップジャーナルに掲載され、たいへんうれしく思うとともに、本テーマの学際的な広がりと発展可能性に大いに刺激を受けました。研究をさらに深めてゆきたいと考えています。

GIDE 2022 Paris大会での報告

 2022年7月7日から9日まで、パリで開催された、シャルル・ジッド学会 第19回国際大会で、論文を発表しました。学会は、パンテオン広場にある、パリ第Ⅰ大学の由緒ある校舎で開催されました。

(プログラムはこちらです

3年ぶりのフランスでの学会報告でした。大会のテーマである、“Bonheurs et malheurs de l’agent économique” (経済主体の幸福と不幸)にちなんで、私は、ワルラスの共感概念について、報告をしました。論文では、ワルラスとアダム・スミスの共感概念の比較をしているので、スミスのセッションで報告することになり、スミス研究者から、貴重なコメントをもらうことができました。

フランスに到着してまずびっくりしたのは、マスクを着けている人がほとんどいなくて、コロナ以前の生活にほぼ戻っているということでした。さらに学校の夏休み期間に入っているので、空港や観光地は、欧米からの家族連れの観光客であふれかえっており、これまで見たことのないような混雑ぶりでした。

ただしコロナの感染者数は、フランスでも急増しており、学会直前に感染して、参加をキャンセルした人もいました。学会では、急遽、校舎内でのマスクの着用が推奨され、コーヒー・ブレイクやランチは、予定を変更して、屋内ではなく、中庭で提供されました。パリの気温は高かったですが、日本とは違って乾燥しているので、屋外での食事は、とても心地よかったです。

ウクライナでの戦争の影響による航路迂回により、日本とヨーロッパ間のフライト時間は普段より長く、また現地で帰国のための検疫書類の準備もしなくてはならず、いつもより疲れる出張でしたが、多くの研究者たちと再会の喜びを分かち合い、充実した時間を過ごすことができました。

日本ベンチャー学会での講演

 2021年12月3日から5日まで日本ベンチャー学会(JASVE)第24回全国大会 が開催されました。私は5日の午後「シュンペーターとイノベーション:その歴史的・思想的背景」という講演をしました。この大会はハイブリッド方式で開催され、私は主催校である大阪経済大学から参加しました。対面形式で学会に参加したのは実に2年ぶりです。

経営学の学会に招かれたのは、これが初めてです。私の報告の意図は、シュンペーターの企業者概念を、彼が最も影響を受けたワルラスやその源流にあるセーやカンティロンなど、フランスにおける企業者概念の歴史から再考し、経営学におけるシュンペーターとカーズナーとの対比についても新たな理解方法を示すことでした。

 対話者の伊藤 博之氏(大阪経済大学教授)をはじめとして、参加者の皆さんから大変刺激的な質問とコメントをいただきました。私のこれまでの研究が、当初は予想していなかった分野で多くの方々の研究に役立つことがわかり、とてもうれしかったですし、ここで得た知見をもとに、私自身の研究もさらに発展しそうです。今後もこのような新しい挑戦を続けていきたいと思います。

Most read articles

 The European Journal of the History of Economic Thoughtの2021年6月号 Volume 28, Issue 3がこのたび公刊されました。ワルラスとスミス『国富論』の関係を論じた私の論文がこの号に掲載されています。

Kayoko MISAKI “Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith?,” The European Journal of the History of Economic Thought 28-3, 2021, 404 – 418 (published on line, October 2020): https://doi.org/10.1080/09672567.2020.1837198.

この論文はすでに昨年の10月にオンライン上で公刊されており、このサイトでも論文の内容とともにお知らせしました(記事はこちら)。現在、この論文は、このジャーナルの Most read articles (最も読まれている論文)の10番目にランクインしています。経済学史のトップジャーナルのひとつに論文が掲載されたこともうれしいですが、経済学史の分野を超えて多くの皆さんに論文が読まれていることも大変うれしいです。今後はこの論文が末永く、多くの研究者に引用されることを願っています。

(追記)

2022年12月26日
本論文へのアクセス数が5,000に達しました。多くの方々に読んでいただきありがとうございます。

EJHET 掲載論文 ワルラスは『国富論』をどう読んだのか?

 The European Journal of the History of Economic Thought 誌にアクセプトされた、ワルラスとアダム・スミスとの関係を探った私の論文が、紙媒体に先駆けて、2020年10月27日付でオンラインで公刊されました。この論文は、オープンアクセスなので、以下のリンクから、全文の参照およびダウンロードが可能です。

Kayoko Misaki, “Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith?,” The European Journal of the History of Economic Thought (Published on line, October 2020): 1–15, https://doi.org/10.1080/09672567.2020.1837198.

この論文は、ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査を手掛かりに、ワルラスとアダム・スミスとの知られざる影響関係を明らかにする考察です。ワルラスの一般均衡理論は、スミスの「見えざる手」を理論的に発展させたものというのが、経済学の教科書に書かれている、一般的な解釈ですが、そのような「常識」に真っ向から挑んだのが、この論文です。この解釈については実は、アダム・スミス研究者による多くの反論がありますが、ワルラス研究者からはこれまでまったく反論がなされていなかったのです。また逆にワルラスはスミスから影響を受けていないという、シュンペーターやジャッフェの解釈を覆すことも、この論文は意図しています。ジャーナルの査読の過程で、当初は想定していなかった、ワルラスとスミス『道徳感情論』との関係にまで考察を拡げることになり、論文の内容が大きく発展しました。アドバイスしてくれたレフェリーに感謝しています。

この論文が、オープンアクセスにより、経済学史研究の枠を超えて、様々な分野の経済学者に読まれ、実りある議論につながってゆくことを期待しています。