ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査

2018年3月15日から3日間、スイスのローザンヌ大学ワルラス・パレート研究所(Centre Walras Pareto d’études interdisciplinaires de la pensée économique et politique)に滞在しました。今回の滞在の主な目的は、同大学に所蔵されているワルラス文庫の調査でした。これは、現在交付を受けている科研費のプロジェクト「ワルラス一般均衡理論の思想的起源の解明―ローザンヌ大学ワルラス文庫を手掛かりに」の計画に含まれているものです。

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ワルラス文庫の調査は、20年前から取り組んでいます。ワルラス自身による蔵書への書き込みを調べることにより、ワルラス経済学の形成過程を知ることができるのです。今回は特に、ジェヴォンズ、J.S.ミル、ルソーの著書への書き込みを調べることが目的でした。調査を始めたころは、暗くて寒い書庫の中でしか閲覧を許されなかったこともありましたが、今回は、滞在中、専用の研究室を与えられ、快適な環境で作業を効率的に進めることができました。

さて現在、この研究所が入っているle Géopolisという校舎は、とてもユニークな構造をしています。アルミホイルを貼ったような外見をしていますが、この校舎には開閉可能な窓がありません。エネルギーを無駄にしない最新鋭の空調設備が備えられているのです。

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この建物の中には吹き抜けがいくつもあり、ほとんどの部屋はその吹き抜けから採光するようになっています。吹き抜け側の壁は透明のパネルで、他の研究室が丸見えです。セキュリティ上はよいのかもしれませんが、少し落ち着かない雰囲気です。

数年前までワルラス・パレート研究所が入っていた古い校舎からは、窓からレマン湖とフランス・アルプスの絶景が臨めました。正直言うと、そちらの眺めの方が私は好きでした。

(続く)

2014-17 科研費「ワルラス企業者論の解明」報告書

2014年4月1日から 2017年3月31日まで、科研費基盤研究(C)の交付を受けて、「ワルラス企業者論の解明-純粋・社会・応用経済学の観点から」という研究プロジェクトを実施しました。その実施報告書は昨年5月頃に提出しましたが、このたび、科学研究費助成事業データベースで閲覧可能となりました。

この研究プロジェクトの課題は、ワルラスの企業者論の全貌を明らかにすることでした。
ワルラスの純粋経済学(一般均衡理論)においては、均衡状態に企業者が受け取るべき利潤がゼロとなることはよく知られていますが、純粋経済学だけでなく、これまでほとんど研究がすすんでいない社会経済学と応用経済学にも注目することによって、ワルラスにおける企業者の現実的意味とそこにこめられた真の意図を明らかにすることがこのプロジェクトの目的でした。

研究成果については、原稿は提出したものの、公刊に至っていないものもあります。公刊され次第、このサイトでもお知らせします。

貴重書展示 レオン・セー『フランスの財政』(1883)と自筆書簡

 滋賀大学附属図書館の貴重書展示コーナーの展示替えをしました。

 2017年秋の展示は、レオン・セー著『フランスの財政』( Say, Léon, Les finances de la France : une année de discussion du 15 décembre 1881 au 20 décembre 1882, Paris : Guillaumin, 1883 ) と、セーが本書を統計学者Alfred de Foville(1842-1913)に献呈する際に添えた自筆書簡です。

 この書簡を紹介する私の論文が7月に公刊されたことについては、すでにこのサイトでもお知らせしました。

以下が、貴重書展示コーナーでの私の解説文の抜粋です。

  レオン・セー(Léon Say, 1826-1896)は、フランスの自由主義経済学者、実業家、政治家であり、「セー法則」で有名な経済学者J.B.セー(Jean Baptiste Say,1767-1832) の孫にあたる。彼は、フランスの財務大臣を3回務め(1872年-73年、1875年-79年、1889年)、日本銀行の設立にも大いに影響を与えた人物として知られる。 
 滋賀大学附属図書館は、レオン・セーの著書『フランスの財政―1881年12月15日から1882年12月20日までの1年間の議論』(1883)を所蔵している。本書に添えられた書簡から判断して、これは、著者のレオン・セーが、同時代の著名な統計学者アルフレッド・ド・フォヴィーユ(Alfred de Foville, 1842-1913)に献呈したものであることが判明した。書簡の文章からは、レオン・セーがと16才年下の統計学者ド・フォヴィーユに対して、敬意と親近の情を抱いていたことが感じられる。

 

  展示の様子はこちらです。 今回は、レオン・セーが編纂した『新経済学辞典』第2版(Nouveau dictionnaire d’économie politique, publié sous la direction de M. Léon Say et de M. Joseph Chailley, 2e éd. Paris : Félix Alcan, 1900)も同時に展示しています。

 貴重書コーナーの次回の展示替えは、2018年3月を予定しています。

書評 M.H.Turk, The Idea of History in Constructing Economics, 2016

2016年に出版されたMichael.H.Turk氏の著書についての私の書評(英文)が、経済学史学会のジャーナル『経済学史研究』の2017年7月号に掲載されました。

Kayoko MISAKI, Book Review, Michael H.Turk, The Idea of History in Constructing Economics, Routledge, 2016, The History of Economic Thought, 59-1, July 2017, pp.107-108.

この本は、18世紀のケネーから21世紀のピケティまでを対象に、経済学はどのようにして「科学」としての性格を与えられてきたのか、そして経済学と「歴史」との懸け橋は可能かという、経済学史における根源的な二つの大問題に同時に取り組んだ意欲作です。経済学が「科学」としての性格を色濃く帯びるようになるきっかけとなったのは、限界革命とワルラス一般均衡理論の登場であることは周知の事実ですが、ワルラスが同時代の数学者たちの考え方を正しく理解しなかったことがその後の新古典派の方法論を決定づけたという刺激的な解釈が出発点となっています。またマックス・ウェーバーと新古典派経済学との関係についての議論も、経済学はいかにして歴史学的な視点をもった学問として再構築されるうるのか、その可能性を考える上で多くの示唆に富んでおり、たいへん興味深く読みました。

 

資料紹介 Léon SayからAlfred de Fovilleへの書簡(1883)

『彦根論叢』(滋賀大学経済学会)の最新号(2017年夏号 412号)に、私の資料紹介論文「滋賀大学図書館蔵 Léon Sayから Alfred de Foville への書簡(1883)」が掲載されました。(オンラインジャーナルはこちら

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著者 Léon Say から de Foville に献呈された『フランスの財政』(1883)

Léon Say (1826-1896)は、フランスの有名な自由主義経済学者で、フランスの財務大臣を3回務めました。明治時代初頭、日本銀行の設立にも大いに影響を与えた人物として知られています。

Léon Say 著の『フランスの財政』(1883)を数年前に科研費で購入したところ、その本には Léon Sayの自筆書簡が添えられていました。しかしそれが誰宛てなのかがどうしても解読できませんでした。今年の1月に、リヨン第2大学のJean-Pierre Potier教授に会ったときにこの書簡のことを相談したところ、著名な統計学者 de Foville宛のものだということがわかったのです。そしてその書簡の内容から、この本は Léon Sayから de Fovilleに献呈したものであることが明らかになりました。つまりこの本は、de Foville の蔵書だったのです。このことをツイッターで発信したところ、de Fovilleの子孫であるパリ在住の若者からメッセージが届くという、興味深いハプニングもありました。

ESHET 2017 アントワープ大会での報告を終えて

2017年5月18日から20日までアントワープで開催された、ESHET (European Society for the History of Economic Thought ) の年次大会での報告を終えて帰国しました。

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ヨーロッパで一番美しい駅として知られるアントワープ中央駅

 学会が開催されたアントワープ大学は、由緒ある歴史的建築の校舎に囲まれた大変美しいキャンパスでした。残念ながら、大会開催中はずっと小雨が続きました。

私は、ワルラスがスミスの『国富論』をどう読んだかという問題を扱った論文 “Léon Walras on The Wealth of Nations— What did he learn from Adam Smith?” を発表しました。討論者のJ.P.Potier教授や、セッションに参加した皆さんから貴重なコメントをいただきました。

また David Andrews教授の“Laissez faire and the rationality of nature: A critique of Michel Foucault’s interpretation of Adam Smith”という論文の討論者も務めました。大きな学会では、必ずしも自分の専門テーマではない論文の討論者に振られることもあり大変ですが、勉強になることも確かです。(学会プログラムはこちらです)

学会最終日のパーティは、アントワープ市庁舎で行われました。市庁舎の外観や広場の眺めも素晴らしいですが、内部の絢爛豪華な装飾は息をのむほどの美しさでした。特に市庁舎の大きな窓から眺めるアントワープの聖母大聖堂は圧巻でした。アントワープ市民は普通、この部屋で結婚の手続きをする際にのみこの光景を見ることができるという説明をうけました。

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3日間の学会で、ヨーロッパの多くの研究者たちと再会し、また新しく知り合った研究者たちとも有益な議論ができました。これをきっかけに、また新たな国際共同研究プロジェクトが始まることを期待しています。

ESHET 2017 アントワープ大会で報告します

2017年5月18日から20日まで、ベルギーのアントワープで、ESHET (European Society for the History of Economic Thought ) の第21回年次大会が開催されます。(プログラムはこちら

この学会で、ワルラスが『国富論』をどう読んだかというテーマで研究発表をすることになりました (Léon Walras on The Wealth of Nations— What did he learn from Adam Smith?) 。この論文は、ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査の成果の第一弾にあたり、スミスの「見えざる手」とワルラスの一般均衡理論を結び付ける教科書的解釈にも一石を投じることを意図しています。

 

 

なおこの学会での報告内容を、専門家ではない方々でも理解できるように要約して、6月15日に滋賀大学リスク研究センターのEnglish Lunch Seminar で発表する予定です。学内の方々の参加をお待ちしています。