滋賀大学附属図書館の貴重書展示コーナーの展示替えを行いました。2022年春の展示は、アダム・スミスの『国富論』(1791年バーゼル版)とJ.B.セー『経済学概論』(1832年アメリカ版英訳第5版)です。新入生の皆さん、ぜひご覧ください。
今回展示する『国富論』は非常に保存状態が良く、美しい本です。有名な「見えざる手 (invisble hand)」が登場するページが開いてありますので、探してみてください。またJ.Bセーは、ケインズが批判した「セー法則(Say’s law)」で有名ですが、シュンペーターよりも100年以上前に企業家論を展開していた経済学者としても注目されています。
以下が私の説明文の抜粋です。
1776年、アダム・スミス(Adam Smith, 1723⁻1790)の主著『国富論』(原題「諸国民の富の原因と性質に関する研究」)の初版が、ロンドンで出版された。『国富論』は、現在でも経済学の古典として不動の地位を占めている。今回展示するのは、1791年にスイスのバーゼルで出版されたものであるが、これは、本国イギリス以外で初めて出版された英語版である。『国富論』は、世界各国の経済学や経済政策、近代化の思想に大きな影響を与えたが、それが本格的に各国で普及するのは19世紀になってからである。その際、『国富論』の解説書として、普及したのがフランスの経済学者J.B.セー(Jean Baptiste Say, 1767-1832)の『経済学概論』(初版1803年)であった。セーの著作は、スミスの『国富論』よりも説明がわかりやすく、スミスよりも企業者の役割を重視していた点で、特にアメリカで人気を博した。セーの考える企業者の役割には、知識の応用、資本の調達、指揮、監督、管理、危険負担、技術革新などが含まれ、生産性の上昇の要因として、スミスが分業のみを議論していたのとは対照的である。セーの考え方は、現在も企業家論、イノベーション論の源流として注目を浴びている。本図書館は、セーの『経済学概論』のアメリカ版英訳第5版(1832年)を所蔵している。
展示の様子はこちらです。次回の展示替えは、9月を予定しています。